「日本の医療崩壊をくい止める」本田宏氏記念講演をZOOMで開催しました

「日本の医療崩壊をくい止める」本田宏氏記念講演をZOOMで開催しました

第2部 「日本の医療崩壊をくい止める」 本田 宏氏(NPO法人医療制度研究会副理事長)

 かねてより「日本の医療崩壊」の危機を新聞やテレビを通じて訴えてこられた本田宏氏は、この新型コロナ禍が日本が変わる最後のチャンスかもしれないとおっしゃっている。これまで1600回の講演を重ね、この日本で社会保障を改善させることの難しさを実感している氏の、率直な思いである。

 新型コロナで活躍している公立公的病院も、国は再編統合見直ししようとしていない。補助金まで付けて推し進めようとする再編統合の理由が、医師不足と赤字。これらはどちらも国が招いたこと。これが一般の人にはなかなか伝わらない。むしろ病院の赤字は努力不足だというふうに誤解している人が多い。この40年の間に日本の感染症ベッドは8分の1、保健所はほぼ半減した。そしてこれを理由にPCR検査の拡充もできないということだが、不思議なことにオリンピック選手だけは毎日やる。もう訳がわからない状況だと嘆いた。

 社会の現実をしっかりと見極めるポイントとして4つの点を示された。まず物事の全体像を把握すること。医療とか社会保障だけじゃく、年金や介護、経済。この全体像を見ないと日本という国が見えてこない。そしてグローバルスタンダードと比較すること。もし新型コロナが日本だけで起こったことなら、PCR検査数が少ないのはおかしいなんてことは誰も気づかなかった。そして今の日本は一朝一夕にできたわけじゃなく、しっかり歴史を検証すること。歴史的な背景も見ないと日本は見えてこない。逆にこれが見えないと、今後日本がどこに向かって進むかということを想像しにくいと述べた。

 そして「Follow the Money」。政治が何かやりたいときには、一体だれが得をするかという視点を持つことが大事である。オリンピック、辺野古新基地、原発再稼働、マイナンバー、憲法改正など。何か国がやろうとしているときには、それに付随して金が動いていると考える。例えば、辺野古の軟弱地盤に杭を何本も打ち込んで、「勿体ない」という意識ではダメ。あれは誰かの懐に入っているとみる視点が大事だと指摘した。

 高齢化によって各国は医療費対GDPが上がっているにもかかわらず、日本はこれまで抑制を維持してきた。それは日本は医療費が公定価格で決められているからであると指摘。年々消費者物価や賃金が上がっても、公定価格である診療報酬は据え置きのままであることをデータで示された。あまり知られていないが、世界では医療は無料が当たり前。1995年に厚労省は2025年に医療費が141兆円になると予測した。次の年は101兆円。高く見積もりながら、どんどん抑制していく。今は医療費40数兆円。これだけ間違っていても誰も責任を問われない。薄利多売をしないといけないのが日本の医療の現実である。低い手術料で世界一高く薬や検査機器を購入している。これでは病院が黒字になるわけがない。

 日本はベッド当たりの医師、看護師数が少ない。よく日本はベッド数が世界一多いという非難にも似た評価があるが、これは精神科も入った数字だということ。実はICU重症者を診るベッドがお隣の韓国より少ない。だから重症者対応が必要な新型コロナではすぐにひっ迫状態になる。

 そして医師数はOECD加盟国平均よりも13万人足りない。日本は世界一の高齢社会だから、平均より上になってもおかしくない。許せないのはこの13万人不足している日本で2023年には医学部定員を減らすということ。感染症専門医は10年前から足りていない。今でも1500人も足りない。

 また本田氏は、日本の投票率の低さをグラフで示し、今の教育に大きな問題があると指摘した。日本の学校では暗記、苦手、制服、規則、団体行動の5つの押し付けで「考えさせない」人間を生み出していると指摘。かたやドイツでは小学生にデモの手法を教え、ナチスの反省から政治教育に力が注がれていること。スウェーデンでは模擬投票を学校で教え、すべての世代で投票率が80%以上であること。デンマークでは18歳以上は国に扶養義務が移り、学業に専念するための給付型奨学金が支給され、もちろん学費は無料であること。人々が「助け合うこと」が最も大切なことという価値観が醸成されている決定的な違い。それに対して、日本の学生はアルバイトが本分になっているのではないか。競争が強いられている。フランスでは「人生を楽しむために働く」日本はどうか。労働それ自体が目的化していないか。日本と海外の教育の違いとその重要性がよく理解できた。

 最後に、司法や政治、国民の考えを変えるのは残念ながら難しいと思うと述べ。お金も名も残せないが、やっぱり人を残さないとと思い、若い世代に伝えていくことに力をいれているとのことであった。なかなか若い世代と話す機会が少ないが、チャンスをとらえて、若い人にも飽きさせないように、楽しくダジャレも交えて伝えていくことも大事だと思うと90分間の講演を締めくくった。

 日本の厳しい現実にだけ向き合うと暗い気分になってしまう。しかし、人に伝えていくことの重要性を認識し、伝え方、見せ方の工夫もしながら、後世に「人を残す」ことに展望を持ち、あきらめず働きかけていくことが大切であると感じた。とにかく、終始笑いの絶えない楽しく実りある講演であった。

 

石川県社保協 youtube

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